「チャバネゴキブリ」と聞くと、多くの人は飲食店やビルの厨房にいる、業務用の害虫というイメージを持つかもしれません。しかし、近年、その生息域は着実に一般家庭へと拡大しており、私たちの暮らしに深刻な脅威をもたらしています。その小さな体と、驚異的な繁殖力を支える「卵」の存在は、もはや他人事ではありません。チャバネゴキブリが一般家庭に侵入する主な経路は、飲食店やスーパーなどからの「もらい物」です。例えば、買い物でもらった段ボール箱や、テイクアウトした商品の紙袋、あるいは中古で購入した家電製品などに、成虫や卵鞘が付着しており、それに気づかずに家に持ち込んでしまうのです。彼らは体が小さいため、わずかな隙間に潜んでいると、見つけるのは非常に困難です。一度、家の中に侵入を許してしまうと、そこからが彼らの独壇場です。チャバネゴキブリは、日本の家屋に多いクロゴキブリとは異なり、屋外で活動することはほとんどなく、暖房が効いた暖かい室内で一年中繁殖を繰り返します。特に、現代の気密性の高いマンションなどは、彼らにとって冬でも快適に過ごせる楽園なのです。そして、冷蔵庫の裏や電子レンジの中といった、常に暖かい場所に卵鞘を産み付け、着実にその勢力を拡大していきます。一つの卵鞘から約40匹が生まれ、その子供たちがわずか2ヶ月でまた卵を産み始める。この繁殖サイクルが、一度定着を許すと根絶が非常に困難になる理由です。一般家庭では、プロの業者を呼ぶことに抵抗があるため、市販の殺虫剤で対処しようとしがちですが、卵鞘には薬剤が効きにくく、また薬剤抵抗性を持つ個体も出現しやすいため、いたちごっこになりがちです。チャバネゴキブリは、もはや特定の業種だけの問題ではありません。私たちのすぐ隣に潜む、静かなる侵略者なのです。その脅威の根源である卵の存在を正しく認識し、不審な段ボールをすぐに処分するなど、日頃からの予防意識が何よりも重要になります。
飲食店だけじゃない!一般家庭に広がるチャバネゴキブリと卵の脅威