女王蜂の孤独な戦いアシナガバチ巣作り開始
長い冬を越したアシナガバチの女王蜂は、春になるとたった一匹で新しい巣作りを開始します。越冬場所から目覚めた女王蜂は、まず、巣を作るのに適した場所を探します。雨風をしのげ、餌場となる花の近くで、外敵から見つかりにくい場所、例えば家屋の軒下やベランダ、木の枝などが選ばれやすいです。場所が決まると、女王蜂は木の皮や朽木などを強い顎で削り取り、唾液と混ぜ合わせて巣材を作ります。そして、それを少しずつ塗り重ねて、六角形の育房(幼虫を育てる部屋)を作り始めます。最初はほんの数個の育房があるだけの、小さな小さな巣です。巣作りと並行して、女王蜂は最初の卵を産み付けます。孵化した幼虫のために、女王蜂は餌となる昆虫などを狩りに行かなければなりません。巣作り、産卵、餌集め、そして幼虫の世話。この時期の女王蜂は、まさに孤独な戦いを強いられているのです。この、女王蜂が一匹だけで奮闘している時期こそが、巣の「初期段階」にあたります。このタイミングで巣を発見できれば、比較的安全に巣を落とすことが可能です。女王蜂は巣と幼虫を守ろうとしますが、働き蜂が多数いる状態に比べれば、危険度は格段に低いと言えます。やがて、最初に産まれた卵が孵化し、幼虫が育ち、蛹を経て働き蜂が羽化してくると、状況は一変します。働き蜂たちは、女王蜂に代わって餌集めや巣作り、巣の防衛といった役割を担うようになり、巣は急速に拡大し、蜂の数も増えていきます。そうなると、もう初期段階とは言えません。アシナガバチの巣を初期段階で落とすということは、この女王蜂の孤独な努力が実を結ぶ前に、その営みを止めるということになります。自然の摂理とはいえ、少し複雑な気持ちにもなりますが、人間との共存を考えると、時には必要な判断なのかもしれません。