古い書物を扱う古書修復家Bさんの工房には、時折、虫によって深刻なダメージを受けた本が持ち込まれます。ページに無数の小さな穴が開いていたり、文字が読めなくなるほど食い荒らされていたり。その様子は、まさに「悲劇」と呼ぶにふさわしいものです。「本の虫による被害で最も厄介なのは、シミによる食害ですね」とBさんは言います。「彼らは本の紙そのものを食べてしまうため、一度被害に遭うと、完全に元通りにするのは非常に困難です」。虫食い穴が開いてしまったページは、どのように修復するのでしょうか。「まず、被害状況を詳細に確認し、本の構造や紙質に合わせて修復計画を立てます。虫食い穴の修復には、『裏打ち』や『葉書の埋め込み』といった技法を用います。裏打ちは、薄い和紙を穴の裏から貼って補強する方法です。より深刻な穴に対しては、同じような紙質の紙(葉書)を穴の形に合わせて切り出し、丁寧に埋め込んでいきます。この際、元の紙との段差ができないように、接着剤の量や圧着具合を微調整する高度な技術が求められます」。文字が欠損してしまっている場合は、どうするのでしょうか。「文字の復元は、原則として行いません。あくまでも欠損した部分を物理的に補強し、これ以上の劣化を防ぐこと、そして本としての形態を保つことが修復の主な目的です。ただし、学術的に価値の高い資料などで、欠損部分の内容が他の資料から明らかになっている場合に限り、参考情報として補記することもありますが、それは非常に稀なケースです」。修復作業は、時間と手間のかかる根気のいる仕事です。「虫に食われたページを見るたびに、もう少し早く気づいていれば、適切な保管がされていれば、と残念な気持ちになります。本を愛する皆さんには、ぜひ日頃からの点検と、適切な環境での保管を心がけていただきたいですね」。Bさんの言葉は、本の虫対策の重要性を改めて教えてくれます。