それはある春の日のことでした。我が家のマンションのベランダ、普段あまり使わない室外機の裏に、枯れ枝が散乱しているのに気づきました。最初は風で飛んできたのかと思いましたが、数日後、明らかに鳥の巣の形になっているではありませんか。そして、そこには二羽の鳩が寄り添うように座っていました。平和の象徴とも言われる鳩ですが、自宅のベランダに巣を作られると話は別です。糞による汚れや臭い、そして何より衛生面が心配でした。すぐにインターネットで調べると、鳩の巣は法律で保護されており、卵や雛がいると勝手に駆除できないとのこと。恐る恐る巣を覗いてみると、案の定、小さな卵が二つありました。ああ、これは巣立つまで待つしかないのか、とため息が出ました。それから約一ヶ月、ベランダは鳩の親子に乗っ取られたような状態でした。毎日のように増える糞の掃除、そして独特の臭い。洗濯物を外に干すのもためらわれました。窓を開けるのも気が引ける日々。雛がかえり、少しずつ大きくなっていく様子は微笑ましい反面、早く巣立ってほしいという気持ちが募るばかりでした。そしてついに、雛たちが巣立つ日がやってきました。鳩の姿が見えなくなったのを確認し、私は完全防備でベランダの掃除に取り掛かりました。マスク、ゴーグル、ゴム手袋、使い捨ての服。巣を撤去し、こびりついた糞をヘラで剥がし、洗剤とブラシでゴシゴシと洗い、最後に消毒用アルコールを念入りにスプレーしました。大変な作業でしたが、これで一安心、と思ったのも束の間。数週間後、なんとまた同じ場所に鳩が巣作りを始めようとしているではありませんか。鳩の執念深さを思い知らされました。慌てて鳩よけのネットを設置し、忌避剤を撒き、物理的に近づけないように対策を施しました。あの静かな攻防戦以来、我が家のベランダは鳩の侵入を許していません。鳩の巣対策は、撤去後の再発防止がいかに重要かを痛感した出来事でした。
ベランダの鳩の巣との静かな攻防記