数年前、とある地域の緑豊かな公園で、異変が起きているとの報告が相次いだ。公園の散策路や植え込み、ベンチの周りなど、至る所で黒褐色の小さな蟻がびっしりと地面を覆い、まるで黒いカーペットを敷き詰めたような光景を呈していたのだ。当初、住民たちは「今年は蟻が多いな」くらいにしか考えていなかったが、その異常な数と攻撃性に、次第に不安の声が高まっていった。専門家による調査の結果、この蟻の正体は特定外来生物であるアルゼンチンアリであることが判明した。アルゼンチンアリは南米原産の蟻で、繁殖力が非常に高く、攻撃的で、在来の蟻を駆逐してしまうなど、生態系への影響が深刻な問題となっている。彼らは複数の女王蟻を持つ「多女王制」であり、巣が巨大化しやすい。また、巣同士が争うことなく、広大なコロニーネットワークを形成する特徴を持つ。この公園では、おそらく外部から持ち込まれた少数のアルゼンチンアリが、天敵が少なく、餌となる昆虫なども豊富な環境下で爆発的に増殖し、公園全体を覆うほどの巨大なコロニーを形成してしまったと考えられた。被害は公園内だけに留まらなかった。公園に隣接する住宅地にも侵入し始め、家屋内に蟻の大群が出没するケースが多発した。住民たちは、窓を閉め切っていてもわずかな隙間から侵入してくる蟻に悩まされ、食品の管理にも神経を使う日々を送ることになった。自治体はこの事態を重く受け止め、専門業者や研究機関と連携し、大規模な駆除作戦に乗り出した。公園全体へのベイト剤(毒餌剤)の設置、薬剤散布、発生源となりうる場所の環境整備などが計画的に実施された。住民に対しても、自宅での対策方法や、蟻の拡散を防ぐための注意喚起が行われた。駆除作業は数年にわたり続けられ、徐々にその効果が現れ始めた。公園内の蟻の数は目に見えて減少し、住宅地への侵入被害も大幅に改善された。しかし、アルゼンチンアリの根絶は非常に困難であり、現在も継続的な監視と対策が必要とされている。この事例は、外来生物の侵入がいかに急速に拡大し、深刻な影響を及ぼすか、そしてその対策には地域全体での長期的な取り組みがいかに重要かを示す教訓となった。
公園を占拠したアルゼンチンアリ