大切な衣類を虫食い被害から守るためには、敵である衣類害虫の生態を理解し、効果的な対策を講じることが不可欠です。衣類を主に加害するのは、カツオブシムシ類の幼虫や、イガ・コイガ類の幼虫です。これらの幼虫は、ケラチンというタンパク質を消化する酵素を持っているため、動物性繊維である羊毛(ウール)、絹(シルク)、カシミヤ、羽毛、皮革などを栄養源として摂取し、成長します。植物性繊維(綿、麻)や化学繊維は通常、直接の栄養源にはなりませんが、これらの繊維に皮脂汚れや食べこぼしなどの有機物が付着していると、それを目当てに食害されることがあります。これらの害虫は、成虫が屋外から飛来し、窓の隙間や換気口、あるいは洗濯物などに付着して屋内に侵入し、暗くて湿気が多く、餌となる衣類が豊富なクローゼットやタンスの中に産卵することで発生します。幼虫は光を嫌い、人目につきにくい場所で活動するため、被害に気づいた時にはすでに深刻な状態になっていることも少なくありません。こうした衣類害虫への対策として、従来から用いられているのが防虫剤です。パラジクロルベンゼン、ナフタリン、樟脳(しょうのう)、そしてピレスロイド系の薬剤などが主な成分として使われてきました。これらは、ガス化して空気中に広がり、虫を寄せ付けなかったり、殺虫効果を発揮したりします。しかし、特有の臭いがあったり、他の薬剤と混ぜて使えなかったり、有効期限があったりと、使用上の注意点も多くありました。近年では、こうした従来の防虫剤に加え、新たな技術を用いた製品も登場しています。例えば、無臭タイプのピレスロイド系防虫剤は、臭いが気にならず、他の防虫剤との併用も可能なものが増えています。また、防虫成分をマイクロカプセル化して徐々に放出させることで、効果を持続させる技術や、衣類に直接スプレーして防虫効果を付与するタイプの製品も開発されています。さらに、薬剤を使わない対策として、衣類保管ケースの密閉性を高め、物理的に虫の侵入を防ぐ工夫や、天然成分(ハーブなど)を利用した忌避剤なども注目されています。将来的には、フェロモンを利用して害虫を誘引・捕獲する技術や、特定の害虫にのみ作用するような、より選択性の高い防除技術の開発も期待されます。衣類害虫の生態研究と防虫技術の進歩により、より効果的で安全、かつ環境に配慮した対策が可能になりつつあるのです。
衣類害虫の生態と最新防虫テクノロジー