蟻の行列はなぜできるのか
家の中や庭先で、蟻が一列になって行進している光景を見たことがあるでしょう。時にはそれがおびただしい数の「大群」となり、私たちを驚かせることがあります。なぜ蟻はこのような集団行動をとるのでしょうか。その秘密は、彼らが持つ高度なコミュニケーション能力にあります。蟻は、餌を見つけると巣までの帰り道に「道しるべフェロモン」と呼ばれる化学物質を地面に付けながら歩きます。このフェロモンは揮発性があり、他の蟻がその匂いを辿ることで餌の場所まで効率よくたどり着くことができるのです。最初に餌を見つけた蟻が付けたフェロモンの道は弱いため、迷う蟻もいますが、餌にたどり着いた蟻が次々と帰り道にフェロモンを上塗りしていくことで、道しるべはどんどん強化されていきます。こうして、多くの蟻が同じ道を正確に往復できるようになり、私たちが目にする見事な行列、すなわち「蟻道(ぎどう)」が形成されるのです。餌がなくなれば、フェロモンを分泌する蟻がいなくなり、揮発性のために道しるべは自然と消えていきます。これは非常に効率的な食料探索システムと言えるでしょう。また、行列を作る理由は餌の運搬だけではありません。引っ越しのために集団で移動する際や、外敵に対して集団で防御・攻撃する際にも、フェロモンを利用した行列が形成されることがあります。特に、家の中に侵入してくるイエヒメアリやアルゼンチンアリなどは、わずかな餌のかけらやこぼれたジュースなどを目当てに、あっという間に大群で行列を作ることがあります。彼らにとっては、それは生存戦略の一環なのです。蟻の行列は、単なる虫の集まりではなく、化学物質を介した高度な情報伝達システムによって統制された、驚くべき社会行動の現れと言えるでしょう。