家の中で一匹見かけたら、その背後には数十匹、いや数百匹が潜んでいるかもしれない。そんな恐怖を掻き立てるゴキブリの大量発生は、決して他人事ではありません。なぜ彼らは、時に私たちの住処を占拠するほど異常発生してしまうのでしょうか。その背景には、ゴキブリ自身の驚異的な生命力と、彼らにとって好都合な環境が深く関わっています。まず、ゴキブリの繁殖能力の高さが挙げられます。多くの種類、特に家屋に侵入しやすいクロゴキブリやチャバネゴキブリは、一度の交尾で複数回、卵鞘(らんしょう)と呼ばれるカプセル状の卵を産みます。一つの卵鞘の中には数十個の卵が入っており、これが次々と孵化することで、短期間に爆発的に数が増えるのです。さらに、卵鞘は硬い殻で覆われており、殺虫剤や乾燥から中の卵を守るため、成虫を駆除しても卵が生き残ってしまうことがあります。次に、ゴキブリが好む環境要因です。彼らは基本的に、暖かく(摂氏20度から30度程度)、湿度が高く(70%以上)、暗くて狭い場所を好みます。そして、何よりも重要なのが「餌」と「水」の存在です。人間の食べこぼし、生ゴミ、油汚れ、ホコリ、髪の毛、他の昆虫の死骸など、彼らは驚くほど多様なものを餌とします。水も生命維持に不可欠であり、キッチンや浴室のシンク周り、結露、観葉植物の受け皿などが供給源となります。これらの条件が揃った場所、例えばキッチンのシンク下、冷蔵庫の裏、コンロ周り、排水溝、壁の隙間、段ボールの中などは、ゴキブリにとって最高の住処となり、繁殖の温床となるのです。また、外部からの侵入経路も無視できません。窓やドアの隙間、換気扇、排水管、エアコンのドレンホース、あるいは荷物に紛れてなど、彼らはわずかな隙間からでも巧みに侵入してきます。これらの要因が複合的に組み合わさることで、私たちの気づかないうちにゴキブリの個体数は増え続け、ある日突然「大量発生」という悪夢のような状況を引き起こしてしまうのです。
ゴキブリが異常発生する理由とは