本の間で見つかるチャタテムシやシミといった害虫は、なぜ特定の環境下で発生しやすいのでしょうか。そのメカニズムを理解するには、湿度と温度という二つの環境要因が鍵となります。これらの虫の多くは、生存と繁殖のために比較的高い湿度を必要とします。特にチャタテムシは、その主な食料源であるカビの発生と密接に関連しています。カビは一般的に、相対湿度が70パーセントを超えると急速に繁殖し始めます。本に使われている紙や糊は、湿気を吸収しやすく、特に梅雨時や夏場、あるいは結露しやすい場所では、本の表面や内部に微細なカビが発生しやすくなります。チャタテムシはこれらのカビを餌として増殖するため、高湿度の環境は彼らにとって楽園となるのです。湿度75パーセント以上、温度25度から30度程度の条件が、チャタテムシの繁殖に最も適していると言われています。一方、シミも高温多湿を好みますが、チャタテムシほどカビへの依存度は高くありません。彼らは本の紙に含まれるセルロースや、製本に使われるデンプン糊などを直接食べることができます。それでも、湿度が低い環境では活動が鈍り、繁殖率も低下します。一般的に、相対湿度が60パーセント以下になると、これらの虫の活動や繁殖は抑制される傾向にあります。温度も重要な要素です。多くの昆虫と同様に、本の虫も温度が高いほど活動が活発になり、繁殖サイクルも早まります。しかし、極端な高温や低温は、彼らの生存にとって不利になります。例えば、50度以上の高温や、0度以下の低温に一定時間さらされると、死滅する可能性が高まります。この性質を利用して、加熱処理や冷凍処理による害虫駆除が行われることもあります。したがって、本の虫対策の基本は、湿度と温度を適切に管理し、彼らが好む環境を作らないことにあると言えます。
本の虫発生メカニズム湿度と温度の科学