家の中でチャバネゴキブリの成虫を見つけ、慌てて殺虫スプレーで退治した後、近くに落ちていた茶色いカプセル(卵鞘)にも念のためスプレーを吹きかけておいた。これで一安心、と思うかもしれませんが、残念ながらその対策は、ほとんど効果がありません。チャバネゴキブリの卵鞘は、殺虫剤に対して驚くべき耐性を持っているのです。その理由は、卵鞘が持つ強固なバリア機能にあります。卵鞘の殻は、タンパク質とキノン類が結合した、非常に硬くて密な構造をしています。これは、物理的な衝撃や乾燥から内部の卵を守るだけでなく、多くの化学物質の浸透を防ぐ役割も果たしています。市販のエアゾール式殺虫剤の主成分であるピレスロイド系薬剤は、ゴキブリの神経系に作用して麻痺させる効果がありますが、この強固な殻を通り抜けて、内部の卵にまで到達することは非常に困難です。そのため、卵鞘の表面にどれだけ殺虫剤を吹き付けても、中の卵はダメージを受けることなく、やがて時が来れば元気に孵化してしまうのです。これが、ゴキブリ駆除において「卵には殺虫剤が効かない」と言われる所以です。では、どうすれば卵の段階で根絶できるのでしょうか。最も確実な方法は、前述の通り「物理的に破壊して処理する」ことです。しかし、全ての卵鞘を発見するのは至難の業です。そこで重要になるのが、孵化してきた幼虫を確実に駆除するという、次善の策です。そのために有効なのが、「残留性の高い殺虫剤」や「ベイト剤(毒餌)」の設置です。例えば、燻煙剤を使用した直後は効果がなくても、その後卵鞘から孵化した幼虫が、床や壁に残った殺虫成分に触れて死ぬ、という効果が期待できます。また、ベイト剤を産卵場所の近くに設置しておけば、孵化した幼- 虫が最初の餌としてそれを食べ、駆除することができます。卵そのものを殺すのは難しくとも、生まれてきた赤ちゃんを待ち構えて仕留める。それが、殺虫剤を使った卵対策の現実的なアプローチと言えるでしょう。
チャバネゴキブリの卵に殺虫剤は効かない?その理由と対策